社労士が顧問先の処遇改善加算をまとめて見るには — 顧問先が増えたときの運用

介護の顧問先が1社のうちは、処遇改善加算の管理もその1社に合わせた作り方で回ります。問題は顧問先が増えたときです。5社あれば5通りの様式、5通りの料率、5回の実績報告が、同じ時期にまとめて来ます。

運用

顧問先ごとにファイルを開き直す作業

処遇改善加算の管理を顧問先ごとのファイルで行っていると、作業の単位が「顧問先」になります。A社のファイルを開き、料率を思い出し、様式を確認し、閉じて、B社のファイルを開く。1社あたりの手間が小さくても、社数ぶんそのまま積み上がります。

さらに厄介なのは、顧問先ごとに作り方が違うことです。前任の担当者が作ったファイル、事業者が自分で作っていたファイル、事務所で作り直したファイル。同じ「処遇改善加算の管理表」でも、列の意味も計算式も違います。どれが正しいかを判断できるのは、そのファイルを作った人だけという状態になりがちです。

顧問先が増えると何が起きるか

確認の時期が重なる

実績報告の提出期限は、原則として年度終了後2か月以内(翌年度の7月末日)とされています。つまり顧問先の数だけ、同じ時期に同じ作業が発生します。1社なら余裕をもって確認できることが、5社になると順番に処理するだけで精一杯になります。

料率の違いを覚えていられない

健康保険料率は都道府県で違い、労災保険料率は業種で違います。顧問先が複数の県にまたがっていれば、事業所ごとに別の料率で計算する必要があります。年度途中の改定も重なるため、「どの顧問先の、どの事業所の、どの月に、どの料率か」を人の記憶で持つのは現実的ではありません。

不足に気づくのが遅れる

いちばん影響が大きいのはこれです。年度末にまとめて集計する運用だと、不足が分かった時点で打つ手がありません。年度内であれば賞与での補填という手段がありますが、報告の段階では選べません。顧問先に返還が生じれば、それは事務所の責任問題になります。

まとめて見るために必要なこと

顧問先を横断して扱えるようにするには、次の3つが要ります。どれか1つでも欠けると、結局は顧問先ごとの作業に戻ります。

  1. 顧問先を切り替えずに一覧できること。 どの顧問先が不足していて、どこは足りているかを、開き直さずに見られる状態
  2. 料率を顧問先・事業所ごとに持てること。 県や業種の違い、年度途中の改定を、その月の値で解決できる形
  3. 同じ様式で出力できること。 顧問先ごとに違う様式を維持し続けると、担当者が変わった時点で引き継げない

3つ目は軽視されがちですが、事務所の運営としては最も効きます。様式が統一されていれば、引き継ぎは操作の説明だけで済みます。顧問先ごとに独自のファイルがあると、引き継ぐのは「合っているかどうか分からない数字」になります。

顧問先とのやりとりをどう分けるか

実務上、入力を誰がやるかは顧問先によって変わります。事業者側で手当を入力してもらい、事務所は確認と提出だけを担う形もあれば、資料を受け取って事務所が全部入力する形もあります。

どちらでも構いませんが、誰がどこまで見られるかは分けておく必要があります。顧問先Aの担当者が顧問先Bの職員の給与を見られる状態は、事故が起きたときに説明できません。介護の職場では職員の氏名・給与・社会保険情報を扱うため、ここは最初に決めておく点です。

事業者側に依頼することを決めておく

事務所がすべてを抱えると、顧問先が増えた分だけ作業が積み上がります。事業者側でないと分からないことは、最初から依頼する形にしておくほうが続きます。

  • 加算の交付額(国保連の支払決定通知。請求を出している側にしかない)
  • その月に誰へいくら払ったか(給与計算をしている側が持っている)
  • 職員の入退職と、社会保険の加入区分が変わったこと
  • 加算区分を変えた、算定するサービスを増やしたといった届出の内容

とくに3つ目は伝達が漏れやすく、あとから気づいても過去月の金額を直すことになります。変わった時点で知らせてもらう取り決めにしておくと、年度末の手戻りが減ります。

移行のしかた

全顧問先を一度に移そうとすると、まず止まります。過去年度までさかのぼって入れ直すのも現実的ではありません(データの形が今と違い、当時の根拠も残っていないためです)。

  1. 1社だけ、新しい年度の4月分から新しい仕組みで記録を始める
  2. 最初の3か月は既存のファイルと並行して記録し、月末に金額を突き合わせる
  3. 3か月分が一致したら、その顧問先は既存ファイルの更新をやめる
  4. 同じ手順で顧問先を1社ずつ増やす
  5. 過去年度のファイルは、実績報告の控えとあわせて保管する(更新はしない)

並行運用の3か月を省きたくなりますが、ここは省かないでください。金額が合わないときに原因を特定できるのは、両方の数字が手元にある期間だけです。1社で手順が固まれば、2社目からは同じことを繰り返すだけになります。

移行の目的は事務を速くすることではありません。年度末まで誰も気づけなかった不足に、毎月気づけるようにすることです。速さは結果として付いてきます。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する助言ではありません。 介護職員等処遇改善加算の要件・様式・提出期限は改定や指定権者(都道府県・市町村)の 運用によって異なります。実際の算定・届出にあたっては、必ず最新の通知および 指定権者の案内をご確認ください。