月額賃金改善要件 — 賞与に寄せられない理由と、毎月の賃金で改善するということ

処遇改善加算には、受け取った額の一定割合以上を毎月決まって支払われる賃金の改善に充てる要件があります。全額を年度末の賞与でまとめて配る運用ができないのは、この要件があるためです。配分の設計はここから始まります。

制度

なぜ毎月でなければならないのか

処遇改善加算の目的は、介護職員の賃金水準そのものを上げて定着をはかることです。年に一度の賞与で配ると、その年の収入は増えても求人票に書ける賃金は変わりません。毎月の賃金が上がって初めて、採用の場面でも生活設計の場面でも効果が出ます。月額賃金改善要件はこの考え方から来ています。

そのため、年度末に過不足を見て賞与で埋めるという運用は、不足分の調整としては認められても、配分の方法としては成立しません。まず毎月いくら上げるかを決め、そのうえで残りをどう扱うかを考える順番になります。

「毎月決まって支払われる賃金」に入るもの

月額の改善として数えられるかどうか
賃金の種類扱い
基本給の引上げ数えられる。もっとも確実
毎月定額で支払う手当数えられる。処遇改善手当などの名称で新設する形が多い
毎月支払うが額が変動する手当注意が必要。勤務実績で変わるものは「決まって支払われる」と言いにくい
賞与・一時金月額の改善には数えられない
時間外手当数えられない。基本給が上がった結果として増える分は別

判断の軸は「職員が毎月いくら受け取れるかを、あらかじめ分かる形で増やしたか」です。夜勤の回数や残業時間で上下するものは、増やしたことにならないと考えてください。

基本給で上げるか、手当を新設するか

どちらでも要件は満たせますが、性質が違います。

基本給と手当の違い
基本給の引上げ処遇改善手当の新設
職員への見え方賃金水準が上がったと受け取られやすい加算によるものだと説明しやすい
退職金・賞与への影響算定基礎に入るため波及する規程次第で切り離せる
加算が変わったときの調整下げるのは実質的に難しい手当の額で調整しやすい
賃金改善額の説明改定前との差を示す必要がある手当の支給額がそのまま金額になる

加算の額は、算定する区分や利用者数によって年度ごとに変わります。基本給に全額を乗せると、加算が減った年度に賃金を下げられないという問題が残ります。多くの事業所が手当を使うのはこのためです。一方で、基本給を上げなければ賃金水準の底上げにはならないという考え方もあります。どちらを選ぶかは、法人としての方針として決めて記録してください。

新しく加算を取るときに注意する点

これまで加算を算定していなかった事業所が新たに算定を始める場合、既存の賃金のうちどこまでが加算による改善なのかが問題になります。加算を取る前から支払っていた手当を、加算による改善として数えることはできません。

基準になるのは、加算を算定する前の賃金です。その水準からいくら上げたのかが賃金改善額になります。算定を始める前の賃金台帳を残しておいてください。比較の基準が示せないと、改善したことを証明できません。

年度の途中で変えるとき

  • 手当の額を途中で上げる場合、上げた月からの差額が改善額になる。改定日を記録する
  • 職員が増えた場合、その職員の分は入職月からの支給額が改善額になる
  • 加算の区分を上げた場合、交付額が増えるので配る額も見直す必要がある
  • 月額を下げる変更は、職員の不利益変更にあたるため手続きが必要になる

とくに注意が必要なのは、年度の途中で手当の額を変えたときに、変更前の月の金額を変更後の額で計算してしまうことです。年間の支給額を「手当の額 × 12か月」で出すと、改定した月より前がすべてずれます。月ごとに実際の支給額を記録しておけば起きません。

設計するときの手順

  1. 算定する区分を決め、年間の交付見込額を出す
  2. 毎月の賃金で改善する額を決める(要件を満たす割合を確認する)
  3. 基本給で上げるか、手当を新設するかを決めて規程に書く
  4. 対象にする職種の範囲と、職員ごとの配分の考え方を決める
  5. 残りを賞与で配る前提なら、その時期と判断のタイミングを決めておく
  6. 職員に周知し、周知した記録を残す

経営者として考えること

経営者の立場からは、毎月の賃金で配るより賞与で配るほうが安全に見えます。賞与なら加算の額が確定してから金額を決められ、加算が減った年は賞与を減らせば済むからです。月額賃金改善要件は、この「安全策」に一定の歯止めをかけるものです。

ただし、毎月の賃金で配ることには経営上の利点もあります。求人票に載る月給や時給が上がるので、同じ原資でも採用への効果は賞与よりはるかに大きくなります。介護の求職者は月給・時給で事業所を比べるので、年1回の賞与の額は比較の対象になりにくいのです。

配り方による経営への影響
配り方経営上の利点経営上のリスク
毎月の手当・基本給求人票の賃金が上がり、採用と定着に効く加算が減っても下げにくい
賞与・一時金加算の確定額に合わせて調整できる求人での訴求力が弱く、月額要件の分には数えられない

社労士が顧問先で確認すること

  • 毎月の賃金で改善している額が、要件で求められる割合を満たしているか
  • 月額の改善として数えている手当が、勤務実績で変動しない定額のものか
  • 基本給を上げた場合、その上げ幅のうち加算による分を区別して記録しているか
  • 手当を新設した場合、支給条件と金額が規程に書かれているか

月額要件の割合は、加算の一本化や改定のたびに見直されることがあります。顧問先が前年度の計算方法のまま配分を組んでいないか、年度初めに要件の割合と顧問先の配分計画を突き合わせることをすすめます。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する助言ではありません。 介護職員等処遇改善加算の要件・様式・提出期限は改定や指定権者(都道府県・市町村)の 運用によって異なります。実際の算定・届出にあたっては、必ず最新の通知および 指定権者の案内をご確認ください。