処遇改善加算の区分を上げるべきか — Ⅳ→Ⅲ→Ⅱ→Ⅰで増える額と、増える手間を比べる

処遇改善加算は区分が上がるほど加算率が高くなり、受け取れる額が増えます。ただし上の区分ほど求められる要件が増え、満たし続けるための手間もかかります。「取れるなら上を取る」が基本ですが、増える額と増える手間を一度並べてから決めると、途中で要件を外して返還になる事態を避けられます。

制度

区分ごとに増える要件

加算はⅣが基本で、Ⅲ・Ⅱ・Ⅰと上がるにつれて要件が積み上がります。おおまかな関係は次のとおりです。正確な要件は年度の通知で確認してください。

区分と主な要件の関係(概略)
区分Ⅳに加えて求められる主なもの
Ⅳキャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ、月額賃金改善要件、職場環境等要件
Ⅲキャリアパス要件Ⅲ(経験・資格・評価に応じた昇給の仕組み)
Ⅱキャリアパス要件Ⅳ(年収440万円以上の職員)、職場環境等要件の取り組みの公表
Ⅰキャリアパス要件Ⅴ(サービスごとの介護福祉士の配置等の体制加算の算定)

増える額を見積もる

区分を上げたときに増える額は、加算率の差に総単位数と単価を掛ければ出ます。前年度の総単位数を使えば、かなり正確な見積もりになります。

見積もりの例(数字は説明用の仮の値)
項目値
1か月の総単位数200,000単位
現在の区分の加算率18.0%
上の区分の加算率22.0%
率の差4.0ポイント
増える額(月)200,000 × 4.0% × 10.70円 ≒ 85,600円
増える額(年)約103万円

増えた額はすべて職員の賃金改善に充てる必要があるので、法人の利益が増えるわけではありません。ただし職員の賃金を上げる原資が増えるので、採用と定着には直接効きます。

増える手間を見積もる

上の区分を取ると、次のような手間が継続的に発生します。最初に整えるだけでなく、毎年維持する手間として考えます。

  • 昇給の仕組みを規程に定め、実際に評価と昇給を運用する(Ⅲ以上)
  • 年収440万円以上の職員を毎年度確保し、見込額を記録する(Ⅱ以上)
  • 職場環境等の取り組みをホームページ等で公表し、内容を毎年更新する(Ⅱ以上)
  • 体制加算の要件(介護福祉士の配置割合など)を毎月満たし続ける(Ⅰ)

特にⅠは、他の加算の算定状況に連動しています。職員の退職で介護福祉士の配置割合が下がると、体制加算と一緒に処遇改善加算Ⅰの要件も外れることがあります。人の入れ替わりが多い事業所では、この連動を前提に判断します。

利用者負担も上がる

加算率が上がれば、利用者の自己負担も上がります。1人あたりの金額は大きくありませんが、区分を変える月には、重要事項説明書の料金表の差し替えと利用者への説明が必要です。居宅サービスではケアマネジャーへの連絡も忘れずに行います。

判断の順番

  1. 現在の区分で、要件を確実に満たし続けられているかを確認する(ここが崩れていれば上げる前に直す)
  2. 1つ上の区分で追加される要件を書き出し、すでに満たしているものと足りないものに分ける
  3. 足りないものを整える手間と、毎年維持する手間を見積もる
  4. 増える加算額を前年度の実績から見積もり、職員の賃金にどう反映するかを決める
  5. 届出の期限から逆算して、算定を始める月を決める

経営者の視点で見る区分の価値

区分を上げて増えた加算は全額を賃金改善に回すので、損益計算書の上では利益は増えません。それでも上の区分を取る価値があるのは、同じ人件費の負担で、より高い賃金を提示できるからです。

近隣の事業所が加算Ⅰを取り、自社がⅢにとどまっていれば、職員1人あたりの賃金の差は年間で数万円から十数万円になります。この差は求人票の賃金にそのまま表れ、採用の競争力を左右します。人手不足で稼働率を上げられない事業所にとっては、区分の差がそのまま売上の差になることもあります。

  • 採用に苦戦しているなら、区分を上げて求人票の賃金を上げる効果は大きい
  • 職員が定着していて採用の必要が少ないなら、手間とのバランスで判断してよい
  • 要件を整える作業(昇給の仕組みや職場環境の取り組み)自体が、定着の施策になる

社労士が顧問先で確認すること

顧問先から区分を上げたいと相談されたときは、追加の要件を満たせるかだけでなく、満たし続けられるかを一緒に確認します。

  1. 現在の区分の要件について、根拠となる書類(規程・研修の記録・周知の記録)がそろっているか
  2. 昇給の仕組みが規程に書かれているだけでなく、実際に評価と昇給が行われているか
  3. 年収440万円以上の職員の候補が、退職に備えて複数いるか
  4. 体制加算の要件(介護福祉士の配置割合など)を、毎月の職員数の変動を踏まえても満たし続けられるか
  5. 区分を上げた後の加算額の増加分を、どう配分するかの計画があるか

区分を上げる判断は、届出の期限との関係で年度の初めに集中しがちです。前年度の秋から冬のうちに、翌年度の区分を検討する時間を顧問先と取っておくと、要件を整える余裕を持って判断できます。

よくある質問

区分を上げるのは年度の途中でもできますか

できます。ただし届出の期限があるので、算定を始めたい月から逆算して準備する必要があります。期限は指定権者の案内で確認してください。

上の区分を取ったあと、要件を満たせなくなりそうです

要件を満たさなくなる見込みが分かった時点で、区分を下げる届出を検討します。要件を外れたまま上の区分で算定を続けると、その期間の加算が返還の対象になるので、外れた時点を記録したうえで早めに指定権者に相談してください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する助言ではありません。 介護職員等処遇改善加算の要件・様式・提出期限は改定や指定権者(都道府県・市町村)の 運用によって異なります。実際の算定・届出にあたっては、必ず最新の通知および 指定権者の案内をご確認ください。