判断の軸は「職員に支払う賃金か」
賃金改善として数えるものは、労働の対価として職員に支払う賃金です。給与明細に載り、所得税や社会保険料の計算対象になるものだと考えると、おおむね判断を誤りません。
| 支払い | 扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 基本給の引上げ | 数えられる | もっとも確実。月額賃金改善要件にもそのまま効く |
| 処遇改善手当などの定額手当 | 数えられる | 規程に支給条件と金額を書いておく |
| 資格手当・役職手当の新設や増額 | 数えられる | 加算による上乗せ分を区別して記録する |
| 賞与・一時金 | 数えられる | 月額賃金改善要件の分には数えられない |
| 法定福利費の事業主負担の増加分 | 含めることができる | 賃金改善に伴って増えた分だけ |
| 研修費・資格取得費用の補助 | 賃金ではない | 職場環境等要件の取り組みとしては意味がある |
| 福利厚生(食事・物品・旅行など) | 賃金ではない | 改善額には入れない |
細かな手当の扱いは、指定権者によって確認の仕方が違うことがあります。迷うものは、支給を始める前に指定権者に確認しておくと、実績報告で数え直しにならずに済みます。
研修費と福利厚生を混ぜない
研修の受講料や資格の取得費用を法人が負担するのは、職員にとって価値のある支出です。ただしこれは賃金ではありません。職場環境等要件やキャリアパス要件の取り組みとしては記録に残す意味がありますが、賃金改善額の計算には入れません。
同じように、慰労会や記念品、制服の新調なども賃金ではありません。法人としては「職員に還元した」つもりでも、加算の計算上はゼロです。
法定福利費は「増えた分だけ」
賃金を上げると、事業主が負担する社会保険料や労働保険料も増えます。この増加分は賃金改善に含めることができます。ただし含められるのは賃金改善に伴って増えた分だけで、事業主負担の総額ではありません。
保険料率の改定で負担が増えた分や、適用拡大で新たに加入した職員の負担分まで入れてしまうと、改善額が大きく見えすぎます。計算の方法は「処遇改善加算に法定福利費を含める」の記事で詳しく扱っています。
削った手当は差し引く
処遇改善手当を新設するのと同時に、既存の手当を廃止したり減額したりしていると、新設した手当の額がそのまま改善額にはなりません。削った分を差し引いた正味の増加が改善額です。
迷ったときの確認順
- 給与明細に載る支払いか(載らないものは原則として賃金でない)
- 加算がなくても払っていたものではないか(定期昇給・既存の手当)
- 同時に削った支払いはないか(付け替えになっていないか)
- 毎月決まって払うものか、賞与・一時金か(月額要件の判定が変わる)
- 判断がつかないものは、支給前に指定権者へ確認する
経営者が判断を誤りやすい場面
経営者の感覚では「職員のために使ったお金」はすべて処遇改善です。しかし加算の計算では、職員本人の賃金として支払った分しか数えません。この感覚のずれが、実績報告の直前に不足が見つかる典型的な原因です。
| 経営者の意図 | 実際の支出 | 加算上の扱い |
|---|---|---|
| 資格取得を後押ししたい | 受験料・講習費を法人が負担 | 賃金ではない(取得後の資格手当は賃金) |
| 働きやすくしたい | 介護ロボット・ICT機器の導入 | 賃金ではない(職場環境等要件の取り組み) |
| 労をねぎらいたい | 忘年会・慰安旅行の費用 | 賃金ではない |
| 手取りを増やしたい | 処遇改善手当の新設 | 賃金改善として数えられる |
賃金ではない支出にも、職員の定着や職場環境等要件の面では価値があります。ただし加算の原資とは別の予算で組むことが必要です。加算の原資から研修費や機器の購入費を出すと、その分だけ賃金改善が足りなくなります。
社労士が顧問先で確認すること
顧問先が作った改善額の集計表を確認するときは、集計に入っている支払いの種類を一つずつ確認します。特に次の点は誤りが起きやすいところです。
- 賃金台帳に載っていない支出(研修費・物品)が集計に入っていないか
- 法定福利費が事業主負担の総額で入っていないか(増加分だけか)
- 既存の手当を廃止・減額した分を差し引いているか
- 介護職員以外に配分している場合、その職種の範囲が計画書と一致しているか
- 役員報酬や、加算の対象にならない職員への支払いが混ざっていないか
顧問先から「この支出は入れられますか」と聞かれたときに即答できないものは、指定権者の Q&A を確認したうえで、判断の根拠を記録に残しておくことをすすめます。翌年度に同じ質問を受けたとき、また運営指導で問われたときに、同じ説明ができるようになります。
よくある質問
退職金の積み立てを増やした分は数えられますか
退職手当の扱いは、制度の仕組みや支給の形によって判断が分かれることがあります。数える前に、その年度の通知とQ&Aを確認し、判断がつかなければ指定権者に確認してください。
役員を兼ねている施設長の賃金を上げた分は数えられますか
役員報酬は賃金改善の対象として扱いにくいものです。役員が介護職員として現場で働いている場合でも、役員報酬として支払っている部分は分けて考える必要があります。
処遇改善手当を現物(商品券など)で渡してもよいですか
賃金は通貨で支払うのが原則です。商品券などの現物は賃金改善として数えられないと考えてください。