改善額は「差」で数える
処遇改善加算で求められているのは、加算を受け取った額以上に賃金を改善することです。改善とは何かから何かへ増えることなので、必ず比べる相手があります。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 改善後の賃金 | 加算を取った年度に、実際に支払った賃金の総額 |
| 基準となる賃金 | 加算を取らなかったとしたら支払っていた賃金の総額 |
| 賃金改善額 | 改善後の賃金 − 基準となる賃金 |
手当として名前を付けて払った分だけを数える方法は分かりやすいのですが、基本給を上げて対応した分が漏れる、逆に手当を新設する代わりに他の手当を削っていると削った分が差し引かれていない、といったずれが起きます。
基準となる賃金の置き方
基準は「加算がなかった場合」という仮の数字なので、実際には何らかの実績を手がかりに決めます。考え方は通知で示されているので、その年度の様式と記入要領に従います。実務では次のどちらかの形になることが多いです。
- 加算を初めて取る前の年度の賃金水準を基準にする
- 加算を取らない場合の賃金テーブル(基本給・手当の体系)を持っておき、それで計算した額を基準にする
どちらの場合も大事なのは、一度決めた基準の置き方を年度ごとに変えないことです。有利な年だけ基準を変えると、運営指導で前年度との比較を求められたときに説明がつきません。
職員が入れ替わったとき
前年度の賃金総額をそのまま基準にすると、職員数の変化がそのまま改善額に混ざります。
- 職員が増えた年は、増えた人の賃金まで「改善」に見えてしまう
- ベテランが退職して新人が入った年は、賃金を上げていても総額が下がり「改善していない」ように見える
このずれを避けるには、職員ごと、または職員1人あたりの水準で比べる考え方が必要です。年度の途中で入職・退職した職員は、在職していた期間で数えます。
定期昇給と改善を分ける
毎年の定期昇給は、加算がなくても行っていたものです。この分まで改善額に入れると、加算を使って何も上乗せしていなくても要件を満たしているように見えます。
定期昇給をどう扱うかは通知と様式の定めに従いますが、少なくとも社内では「定期昇給の分」と「加算で上乗せした分」を分けて記録しておくことをすすめます。昇給の内訳が後から分からなくなると、改善額を説明する手段がなくなります。
基準を記録に残す
基準となる賃金は、実績報告の時点で突然計算しようとしても作れません。年度初めの計画書を作るときに決め、次のものを残しておきます。
- 基準の置き方(どの年度の水準か、どの賃金テーブルか)
- 基準額の計算に使った職員と金額の一覧
- 定期昇給と加算による上乗せを分けた昇給の記録
- 年度途中の入職・退職者の在職期間
経営者にとって基準が重要な理由
基準となる賃金は事務の細かい話に見えますが、経営への影響は大きいものです。基準を高く置きすぎると、実際には十分に賃金を上げていても改善額が小さく計算され、不足と判断されて返還になるおそれがあります。逆に基準を低く置きすぎると、運営指導で根拠を問われたときに説明できません。
また、基準が曖昧なままだと、経営者自身が「加算でいくら上乗せしているのか」を把握できません。職員から「加算はいくら入っていて、いくら配られているのか」と聞かれたときに答えられないのは、定着の面でも不利です。基準を明確にしておくことは、職員への説明責任を果たす前提でもあります。
- 基準の置き方は、経営者が一度判断して決める(担当者任せにしない)
- 賃金テーブルを改定したときは、基準への影響を必ず確認する
- 加算の区分が変わった年は、改善額の目標も変わるので、基準と一緒に見直す
社労士が顧問先で確認すること
顧問先の実績報告で改善額が合わないとき、原因の多くは配分の不足ではなく基準の置き方にあります。次の点を順に確認すると、どこでずれているかを特定しやすくなります。
- 基準の置き方が文書で残っているか(口頭の申し送りだけになっていないか)
- 前年度と同じ基準の置き方を使っているか
- 職員の入れ替わりを総額のまま比べていないか
- 定期昇給の分を改善額に含めていないか、含める場合は様式の定めに沿っているか
- 手当の新設と同時に削った手当を差し引いているか
基準の置き方は顧問先ごとに違うことが多く、担当者が変わると引き継がれずに失われがちです。顧問先ごとに基準の置き方を1枚にまとめて保管しておくと、翌年度以降の確認が大幅に楽になります。
よくある質問
毎年、前年度の賃金を基準にすればよいのですか
前年度の賃金をそのまま基準にすると、前年度に加算で上げた分まで基準に含まれ、今年度の改善額が小さく計算されることがあります。基準の考え方は様式と記入要領に定めがあるので、それに沿って決め、毎年同じ考え方を使います。
職員が全員入れ替わった場合はどうなりますか
総額で比べると意味のある比較になりません。職員1人あたりの水準や、加算を取らない場合の賃金テーブルで計算した額など、人の入れ替わりに左右されない基準を使う必要があります。迷う場合は指定権者に相談してください。