なぜ含められるのか
処遇改善加算が求めているのは「加算額を職員の処遇の改善に充てること」です。賃金を上げれば、それに伴って事業主が負担する社会保険料等も必ず増えます。この増加分は事業所が職員のために追加で負担した費用なので、賃金改善額に含めて差し支えないとされています。含めるかどうかは任意ですが、含めなければ同じ支給をしていても「使い切れていない」という結論になります。
何が含まれるか
- 健康保険料(協会けんぽの場合、料率は都道府県ごとに異なる)
- 介護保険料(40歳以上65歳未満の被保険者のみ)
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料(事業の種類ごとに料率が異なる)
- 労災保険料(全額事業主負担。事業の種類ごとに料率が異なる)
- 子ども・子育て拠出金(全額事業主負担)
事業主負担分を合計すると、おおむね賃金の15%台後半になります。ただしこれは全員に同じ数字が当てはまるという意味ではありません。実際には職員ごとに、そして月ごとに変わります。
職員ごとに金額が違う、が落とし穴
| 働き方 | 健康保険・厚生年金 | 介護保険 | 雇用保険 |
|---|---|---|---|
| 常勤(40歳未満) | 加入 | 対象外 | 加入 |
| 常勤(40歳以上65歳未満) | 加入 | 対象 | 加入 |
| 短時間のパート(要件を満たさない) | 対象外になることがある | 対象外 | 要件を満たせば加入 |
- 週の所定労働時間が短い職員は、健康保険・厚生年金の被保険者にならないことがある(適用拡大の要件に注意)
- 介護保険料は40歳に達した月から徴収が始まり、65歳に達すると徴収のしかたが変わる
- 雇用保険には適用除外がある
- 年度の途中で勤務時間が変われば、加入区分そのものが変わる
つまり、職員ごと・月ごとに加入区分を持っていなければ、正しい金額は出せません。全員に一律の料率をかける方法は簡単ですが、パートの比率が高い事業所ほど実額から離れます。
実額で出すか、料率で出すか
- 実額方式:賃金改善額に対応する保険料を、職員ごとに実際の等級・料率で計算する。正確だが手間がかかる。
- 料率方式:賃金改善額に事業主負担の料率合計を掛けて概算する。実務ではこちらが使われることが多い。
どちらでも構いませんが、年度を通して同じ方式を使い、根拠を残してください。途中で方式を変えると、前半と後半で金額の性質が変わり、なぜ増減したのかを説明できなくなります。実地指導で聞かれるのは金額の正しさより、その金額をどう出したかの一貫性です。
料率は年度の途中でも動く
協会けんぽの健康保険料率と介護保険料率は、例年3月分(4月納付分)から改定されます。雇用保険料率も年度ごとに見直されます。つまり「今の料率 × 12か月」では年度の合計は合いません。その月の料率で、月ごとに計算するのが原則です。
さらに健康保険料率は都道府県ごとに違います。複数の県に事業所を持つ法人は、料率を法人でひとつ持つのではなく、事業所ごとに持てるようにしておく必要があります。本部の所在地の料率で全事業所を計算すると、県をまたぐぶんだけ静かにずれます。
金額の感覚をつかむ
職員1人あたり月15,000円の賃金改善を12名に行い、事業主負担の料率合計を15.5%とすると、月あたりの賃金改善額は180,000円、事業主負担の増加分は約27,900円です。合計で約207,900円になり、年間では法定福利費だけで約33万円になります。
この33万円を入れ忘れると、そのぶん不足しているように見えます。結果として、本来は必要のない賞与を出して埋めることになりかねません。逆に、含めたつもりで計算を誤ると、足りていないのに足りていると誤認したまま報告してしまいます。どちらも実績報告の段階では取り返しがつきません。
計画書と実績報告で、数え方を変えない
年度の初めに出す計画書でも、賃金改善額の見込みに法定福利費を含めることができます。ここで含めておきながら実績報告では外す(あるいはその逆)と、計画と実績で金額の性質が変わり、差の理由を説明できなくなります。
とくに起きやすいのが、計画書は前任者が作り、実績報告は後任者が作るという場合です。前任者が料率方式で見込んでいたことを知らなければ、後任者は素直に支給額だけを積み上げます。結果として計画より実績が少なく見え、足りているのに足りないと判断してしまいます。どちらの方式で、どの料率を使ったのかを、計画書と一緒に残しておいてください。
手作業で崩れやすい3点
- 年度途中の料率改定を反映し忘れる(4月をまたぐ表を作り直す手間で後回しになりやすい)
- 40歳到達・65歳到達の月を追えていない
- 加入区分が変わった職員について、変更前の月まで新しい区分で計算してしまう
いずれも、計算式そのものが難しいわけではありません。難しいのは、職員数 × 12か月ぶんの「その月の状態」を維持し続けることです。ここが崩れると、賃金改善額の合計が静かに数十万円単位でずれます。