返還は「配りきれなかった」ときに起きる
処遇改善加算は、事業所の収益として自由に使える報酬ではありません。交付された額以上を職員の賃金改善に充てることが前提で、充てた事実を実績報告で示します。示せなかった分、つまり交付額に対して賃金改善額が不足した分が、返還を求められる対象になります。
金額の感覚をつかんでおいてください。加算は事業所の規模とサービス種別によりますが、年間では数百万円から、複数事業所を持つ法人なら数千万円の規模になります。月額数千円の管理ツールを導入するかどうかという判断とは、桁がいくつも違う話です。
返還につながる4つのパターン
| パターン | 何が起きているか |
|---|---|
| 賃金改善額が交付額に届かない | 配った額が受け取った額を下回った。もっとも多い |
| 算定要件を満たしていなかった | キャリアパス要件や職場環境等要件を、年度を通して満たせていなかった |
| 実績報告を出さなかった・遅れた | 期限までに提出できず、算定自体が認められなくなる |
| 区分の誤り | 満たしていない上位区分で算定していた。差額が対象になる |
このうち2番目と4番目は、年度の初めに要件を確認してあれば起きません。3番目は期限の管理だけの問題です。実務で現実に起きるのは、ほぼ1番目です。そして1番目の多くは、本当に配っていなかったのではなく、配った額を正しく数えられていないことが原因になります。
不足しているように見えて、足りていることがある
実績報告の段階で「加算額に対して支給額が足りない」と出たとき、まず疑うのは集計の方法です。次の3つは、実際には配っているのに金額として現れない典型です。
法定福利費の増加分を数えていない
賃金改善に伴って増えた社会保険料の事業主負担分は、賃金改善額に含めることができます。手当の支給額だけを積み上げると、この分がまるごと抜け落ちます。手当の1割から1割半に相当する金額なので、不足額がこの範囲に収まっているなら、まずここを確認してください。
加算の入金月と支給月のずれを合わせていない
加算は国保連からサービス提供月の翌々月に入金され、職員への支給はその後の給与になります。同じ月同士で引き算すると、ずれた月数ぶんが常に不足として出ます。年度の端ではこのずれが丸ごと差額に見えるため、金額が合わない原因としてもっとも気づきにくい部分です。
年度をまたぐ賞与が入れ替わっている
賃金改善実施期間で集計せず、単純に4月から3月で区切ると、期間の端にある賞与が入ったり抜けたりします。賞与で不足分を補う運用をしている場合、補填のために出した賞与がそのまま集計から外れることがあります。
年度内なら埋められる。年度が終われば埋められない
本当に不足しているなら、年度内であれば賞与や一時金で埋められます。逆に、年度が終わってから不足に気づいた場合、後から支給して埋めることはできません。実績報告の作業中に初めて気づくと、その時点で選択肢がなくなっています。
賞与で埋める判断には、支給日の決定・計算・社会保険料の処理までの時間が必要です。年度末の給与で動かすつもりなら、少なくともその2か月前には過不足を把握しておく必要があります。月次で過不足を見ておく理由はここにあります。
返還以外の影響
- 過誤調整として、以後の介護報酬から差し引かれる形になることがある
- 運営指導で指摘され、改善報告を求められる
- 要件を満たしていない期間が長い場合、加算の算定そのものを取り下げることになる
- 悪質と判断された場合は指定の効力停止や取消といった処分の対象になり得る
手続き上の扱いは指定権者によって異なります。不足が分かった時点で自分から相談するほうが、運営指導で指摘されるより扱いは軽くなります。隠して通過を狙うのは、もっとも損の大きい選択です。
返還を防ぐために確認しておくこと
- 加算の交付額を、事業所ごと・月ごとに記録しているか(請求額ではなく確定額)
- 職員への支給額を、手当と賞与に分けて月ごとに記録しているか
- 法定福利費の増加分を算入しているか。その料率を記録しているか
- 加算の対象月と支給月のずれを、事業所ごとに把握しているか
- 集計の期間を賃金改善実施期間にそろえているか
- 過不足を年度末ではなく毎月見ているか
- 算定している区分の要件を、年度を通して満たし続けられているか
この7つが埋まっていれば、実績報告は集計を出すだけの作業になります。埋まっていない状態で年度末を迎えると、集計と判断を同時にやることになり、そこで初めて不足が見つかります。