加算は利益にならない
処遇改善加算は、受け取った額以上を賃金改善に充てることが要件です。会計上は介護報酬の一部として売上に計上され、同じ額以上が人件費として出ていきます。つまり、加算を取っても営業利益はほとんど変わらず、事務の手間の分だけむしろ負担が増えるというのが実態です。
それでも加算を取る理由は、自社の原資だけでは払えない水準の賃金を払えるようになり、採用と定着で他の事業所と競えるようになるからです。加算は利益のためではなく、人材のための仕組みだと捉えると、経営判断の軸がぶれません。
試算で見る人件費率の変化
加算の前後で人件費率がどう動くかを、単純化した例で見てみます。加算率は仮に20%としています(実際の加算率はサービスと区分、報酬改定ごとに異なります)。
| 項目 | 加算なし | 加算あり |
|---|---|---|
| 基本の介護報酬 | 8,000万円 | 8,000万円 |
| 処遇改善加算 | 0円 | 1,600万円 |
| 売上の合計 | 8,000万円 | 9,600万円 |
| 人件費(法定福利費を含む) | 5,000万円 | 6,600万円 |
| 人件費率 | 62.5% | 68.8% |
| 人件費を引いた残り | 3,000万円 | 3,000万円 |
人件費を引いた残りの金額は変わりませんが、人件費率は6ポイント以上上がります。金融機関や経営分析で人件費率だけを見ると「人件費が重い事業所」に見えるので、加算分を除いた人件費率も別に管理しておくと、経営の実力を正しく判断できます。
加算が減ったときに賃金だけが残る
加算の金額は、利用者数の減少、区分の引き下げ、報酬改定による加算率の変更で減ることがあります。一方、加算を原資に上げた賃金、特に基本給は簡単には下げられません。加算が減っても賃金が残れば、その差は事業所の持ち出しになります。
| 原因 | 起きること | 備え |
|---|---|---|
| 利用者数の減少 | 加算額が売上に比例して減る | 月額手当は見込みより控えめに設定する |
| 要件を満たす職員の退職 | 区分が下がり、加算率が下がる | 要件を一人に頼らない配置にする |
| 報酬改定 | 加算率や要件そのものが変わる | 改定の方向を早めに確認し、規程に見直し条件を書く |
基本給に組み込む割合を決める
月額賃金改善要件により、加算の一部は基本給または毎月決まって払う手当で配る必要があります。基本給に組み込むと職員の安心感は大きくなりますが、下げにくい固定費になります。加算が最も減った場合でも払い続けられる額を基本給に、それを超える分は手当と一時金に、と分けておくと、加算の変動を吸収できます。
- 過去2〜3年の加算額の推移から、最も少なかった年の水準を確認する
- その水準の範囲で、基本給に組み込む額を決める
- 残りを月額手当とし、賃金規程に加算に応じて見直すことを書く
- 年度末の差額を一時金で精算する
加算の収支を月次で見る
加算の入金はサービス提供の2か月後、賃金改善の支出は毎月の給与と年度末の一時金です。月ごとの試算表では、加算の入金と賃金改善の支出が同じ月にそろわないので、月によって加算の収支が大きくプラスに見えたりマイナスに見えたりします。年度の累計で見ることが大切です。
| 数字 | 見方 |
|---|---|
| 加算の入金額(累計) | 年度の見込額に対する進み具合 |
| 賃金改善の支出額(累計) | 手当・基本給の改善分・法定福利費の増加分の合計 |
| 累計の差額 | プラスが大きければ一時金の原資、マイナスなら持ち出し |
| 加算分を除いた人件費率 | 事業の実力としての人件費の重さ |
この4つを毎月の経営会議で見るだけで、年度末の一時金の規模と、翌年度に手当を上げられるかどうかの判断が早くなります。
経営者として気を付けること
加算を取ると売上の数字は大きくなりますが、使える利益が増えたわけではありません。設備投資や新規開設の判断を、加算込みの売上で行うと見込みを誤ります。予算と月次の試算表では、加算の入金と賃金改善の支出を他の売上・費用と分けて見られるようにし、加算の収支はよくてゼロ、法定福利費や事務の手間まで含めれば持ち出しになる前提で事業計画を立ててください。
社労士が顧問先で確認すること
- 基本給に組み込んだ額が、加算が減った場合でも払い続けられる水準か
- 賃金規程に、加算の変動に応じて手当を見直す条件が書かれているか
- 要件を満たす職員の退職で区分が下がる危険がないか
- 加算分を除いた人件費率を、経営者が把握しているか
- 報酬改定の情報を早めに顧問先へ伝え、賃金体系の見直しの時期を一緒に決めているか
よくある質問
加算の分は会計上どの科目に計上しますか
多くの事業所では介護報酬の売上として計上します。加算の収支を把握しやすくするために、補助科目や部門で処遇改善加算を分けておくと、月次の確認と実績報告の準備が楽になります。
人件費率が高すぎると判断されることはありますか
人件費率だけで加算の可否が判断されることはありません。ただ、融資の審査などでは人件費率が見られるので、加算分を除いた数字と、加算の収支を説明できる資料を用意しておくと安心です。