処遇改善手当を賃金規程にどう書くか — 支給対象・金額・変更の条件を明文化する

処遇改善手当を毎月払っていても、賃金規程に書かれていない事業所は少なくありません。規程に根拠がないと、加算の区分が下がった年に手当を減らせない、退職した職員から一時金を請求される、といったトラブルの原因になります。規程は、手当を払い始める前に整えておくものです。

運用

なぜ規程に書く必要があるのか

賃金の決め方や支払い方は、就業規則に必ず書かなければならない事項です。処遇改善手当も賃金なので、毎月支払うならその決め方を規程に書く必要があります。

それに加えて、規程は加算の要件を満たしていることを示す書類にもなります。キャリアパス要件では賃金体系を就業規則等で定めることが求められ、運営指導では規程と実際の支給が一致しているかを確認されます。

書いておく項目

処遇改善手当の規程に定める項目
項目書く内容の例
支給対象介護職員として勤務する者。他の職種への配分を行う場合はその範囲
支給額月額○円、または職種・資格・勤続年数ごとの金額表
非常勤の扱い時給への上乗せ額、または所定労働時間による按分の方法
支給時期毎月の給与と同時に支給する
日割りの扱い月の途中で入職・退職した場合の計算方法
財源介護職員等処遇改善加算を原資とすること
変更の条件加算の区分や額が変わった場合に支給額を見直すことがあること
一時金年度末に加算の残額がある場合に一時金として支給することがあること

いちばん大事なのは「変更の条件」

処遇改善手当の原資は加算であり、加算の額は利用者数や区分によって変わります。ところが規程に「月額2万円を支給する」とだけ書いてあると、加算が減った年も2万円を払い続ける義務が生じます。

一度払い始めた賃金を下げることは、労働条件の不利益な変更にあたり、簡単にはできません。そのため規程には、加算を財源とすること、加算の区分や額が変わった場合には見直すことがあることを、あらかじめ書いておきます。

年度末の一時金の書き方

年度末に加算の残額を一時金として配る運用をしている場合、その支給条件も規程に書いておきます。特に問題になるのは、支給日に在籍していない職員の扱いです。

  • 支給日に在籍している者に限るのか、対象期間に在籍していた者全員に配るのか
  • 在籍期間で按分するのか、一律の額にするのか
  • 金額は毎年度の加算の残額によって決まり、支給しない年度もあり得ること

在籍要件を書いていないと、年度の途中で退職した職員から「対象期間に働いていたのだから受け取る権利がある」と求められたときに、断る根拠がありません。逆に退職者にも配る方針なら、それを明記して連絡先を退職時に確認しておきます。

規程と実際の支給をそろえる

規程を作った後に配分方法を変えて、規程を直し忘れることがよくあります。運営指導では規程と給与台帳を突き合わせるので、ずれていると指摘の対象になります。

  1. 配分方法を変えたら、同じ月のうちに規程も改定する
  2. 規程を改定したら、労働基準監督署への届出と職員への周知を行う
  3. 年度初めに、規程の金額表と給与システムの設定額が一致しているかを確認する

経営者にとっての規程の意味

規程を整えるのは手間がかかるうえ、目に見える効果がないので後回しにされがちです。しかし規程は、加算の額が変わったときに経営者が取れる選択肢を決めるものです。

たとえば利用者が減って加算が2割減った年に、規程に変更の条件が書いてあれば、職員に説明したうえで手当を見直す道があります。書いていなければ、加算が減っても同じ額を払い続けるか、職員一人ひとりの同意を取って下げるしかありません。後者は時間がかかり、職員との関係も悪くなります。

  • 規程は加算の算定を始める前、または配分方法を変える前に整える
  • 金額は規程の本文に直接書かず、別表にすると毎年の改定が楽になる
  • 加算を財源とする手当と、法人の収益で払う手当を分けて定める

最後の点は特に重要です。資格手当や役職手当を加算の財源と法人の財源で混ぜて払っていると、加算が減ったときにどこまでを見直せるのかが分からなくなります。財源ごとに手当を分けておくと、加算の増減の影響が手当の一部に限定されます。

社労士が顧問先で確認すること

  1. 処遇改善手当の支給条件と金額(または決め方)が、就業規則・賃金規程に書かれているか
  2. 加算を財源とすること、加算の変動に応じて見直すことがあることが明記されているか
  3. 年度末の一時金について、在籍要件と算定方法が書かれているか
  4. 規程の改定が労働基準監督署に届け出られ、職員に周知されているか
  5. 常時10人未満で就業規則の作成義務がない事業所でも、キャリアパス要件のために賃金体系を書面で定めているか

よくある質問

処遇改善手当の金額を毎年変えるたびに規程を改定する必要がありますか

金額を規程の別表で定めていれば、別表の改定で対応できます。金額の決め方(加算額に応じて毎年度決定する、など)を本文に書き、具体的な額は別表や毎年度の通知で示す形にすると、改定の負担を減らせます。

職員の同意がなくても規程を変えられますか

職員に不利益な変更は、原則として職員の同意が必要です。就業規則の変更で行う場合も、変更の必要性や内容の相当性などから合理的といえることが求められます。手当を減らす方向の変更は、社労士などの専門家と相談しながら進めてください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する助言ではありません。 介護職員等処遇改善加算の要件・様式・提出期限は改定や指定権者(都道府県・市町村)の 運用によって異なります。実際の算定・届出にあたっては、必ず最新の通知および 指定権者の案内をご確認ください。