在職していた期間の支給は、そのまま賃金改善額になる
まず前提を確認します。年度の途中で退職した職員へ在職中に支給した処遇改善の手当は、賃金改善額として数えられます。退職したからといって、支給した事実が消えるわけではありません。
同様に、年度の途中で入職した職員へ入職後に支給した分も、当然に賃金改善額になります。年度の全期間にわたって在職していなければならない、という決まりはありません。
つまり考え方は単純で、賃金改善実施期間のうち在職していた月について、実際に支給した額を積み上げるだけです。問題は、集計の作り方によってこれが崩れることにあります。
いちばん多い失敗は、退職者が集計から消えること
表計算で管理していると、職員の一覧は「現在の在職者」になりがちです。退職した職員の行を削除する、あるいは退職者のシートに移す。すると年度末に集計したとき、その職員へ支給した分がまるごと抜けます。
抜ける金額は、退職の時期によります。年度末に近い時期に辞めた職員なら、ほぼ1年分の手当が抜けます。数人が該当すれば数十万円から百万円を超える規模になり、実際には配りきっているのに不足していると判断します。
入職者の扱いで注意する点
| 項目 | 注意点 |
|---|---|
| 支給の開始月 | 入職月から支給するのか、試用期間後からなのかを決めて記録する |
| 月の途中の入職 | 手当を日割りするのか満額支給するのかを規程で決める |
| 年間額での計算 | 手当の額 × 12か月で計算すると、在職していない月も含まれる |
| 社会保険の加入 | 加入月から法定福利費が発生する。加入前の月は増加分がない |
| 採用時の説明 | 処遇改善の手当があることを説明したなら、その内容と一致させる |
とくに3番目です。年間の支給額を「月額 × 12」で出すやり方は、全員が年度を通して在職している前提に立っています。入職者がいる年度では必ず多く計上されます。月ごとの実際の支給額を積み上げる形にしておけば起きません。
職員数が変わる年度の配分設計
配分を設計するときに、年度の初めの職員数で1人あたりの額を決めると、年度の途中で職員が増えたときに配る総額が増えます。逆に減れば配る総額が減ります。
- 職員が増えた場合、配る総額が増えて交付額を超える可能性がある
- 職員が減った場合、配る総額が減って不足する可能性がある
- どちらも年度の途中で起きるため、年度末まで気づかないと調整できない
介護の事業所では採用が計画どおりに進まないことが多く、配る総額は年度の初めに固定できません。月ごとに支給額の合計と加算の交付額を並べて見ておき、ずれが広がってきたら賞与での調整を検討する、という運用が現実的です。
賞与で調整するときの対象者
不足分を賞与で埋めるとき、誰を対象にするかで金額が変わります。
| 決め方 | 考え方 |
|---|---|
| 支給日に在職している職員 | もっとも一般的。退職者には支給しない |
| 在職期間に応じて按分する | 年度途中の入職者にも公平になるが、計算が増える |
| 一律の額を支給する | 簡便だが、在職期間の短い職員に厚くなる |
どの方法でも、支給の基準を規程または計画書に書いて、職員に説明できる状態にしてください。その場の判断で額を決めると、翌年度に同じ説明ができません。
記録として残しておくこと
- 職員ごとの入職日と退職日(年度の途中で辞めた職員も一覧から消さない)
- 月ごとの実際の支給額(年間額ではなく月単位で)
- 処遇改善の手当を支給し始めた月
- 社会保険の加入日と喪失日
- 賞与の対象者を決めた基準
要点は1つです。退職した職員の記録を消さないこと。在職者の名簿としては不要になっても、その年度の実績報告には必要です。消す代わりに退職日を入れて残しておけば、集計のときに在職期間で判断できます。
経営者として見ておくこと
介護事業所では、年に数人の入れ替わりがあるのが普通です。経営者として注意すべきなのは、入れ替わりが多い年ほど、加算の原資が余りやすいという点です。退職者の後任がすぐに見つからない期間は、加算は入り続けるのに手当を払う相手がいないためです。
この余った原資は、年度末に在職者へ一時金として配ることになります。それ自体は問題ありませんが、毎年のように一時金が大きくなっているなら、毎月の手当の水準が加算に対して低すぎるサインです。手当を上げて毎月の賃金で配れば、求人票の賃金も上がり、採用の助けになります。
- 退職者が出たら、その人に払っていた手当の分が年度末にいくら余るかを試算する
- 一時金の額が毎年大きいなら、翌年度に毎月の手当を引き上げる
- 採用が決まらない期間が長い職種は、手当の水準を求人の相場と比べる
社労士が顧問先で確認すること
- 実績報告の集計に、年度の途中で退職した職員が含まれているか
- 入職者・退職者の手当が、在職した月の分だけ正しく日割りされているか
- 年度末の一時金の在籍要件が規程に書かれ、そのとおりに運用されているか
- 社会保険の資格取得日・喪失日と、法定福利費の計算期間が一致しているか
社労士は入退職の手続きを顧問先から受けているので、加算の集計とは別の経路で職員の出入りを把握しています。手続きの記録と、顧問先の加算の集計表に載っている職員を突き合わせると、退職者の漏れを確実に見つけられます。