最低賃金の比較に何が入るか
最低賃金を満たしているかどうかは、毎月支払われる基本的な賃金を時間あたりに直して比べます。比較から除かれる賃金は法律で決まっています。
| 賃金 | 扱い |
|---|---|
| 基本給 | 含める |
| 毎月定額で支払う処遇改善手当・資格手当など | 含める |
| 時間外・休日・深夜の割増賃金 | 除く |
| 精皆勤手当・通勤手当・家族手当 | 除く |
| 賞与など1か月を超える期間ごとに支払うもの | 除く |
| 結婚手当など臨時に支払うもの | 除く |
つまり、毎月定額で払っている処遇改善手当は、最低賃金の計算に入ります。基本給だけでは最低賃金を下回っていても、手当を含めれば満たしている、という状態が法律上は成り立ちます。
手当が穴埋めになる構造
問題になるのは、この状態が続いたときです。最低賃金が上がるたびに、基本給を上げずに手当込みで満たしていると、次のようになります。
- 基本給が最低賃金を下回り、手当を含めてようやく最低賃金を満たす
- 翌年の最低賃金の引き上げで、手当を含めても足りなくなる
- 基本給を上げる代わりに処遇改善手当を増やして対応する
- 加算で上げたはずの賃金が、実質的には最低賃金に追い付くための賃金になる
この状態では、加算を取っていない事業所と比べて職員の賃金がほとんど変わりません。職員から見れば「処遇改善手当をもらっているのに、他の事業所と時給が同じ」ということになり、加算の効果が採用にも定着にも出ません。
改善額の数え方にも影響する
最低賃金の引き上げに対応するための賃上げは、加算がなくても法律上しなければならない賃上げです。これを加算による改善として数えてよいかは、基準となる賃金の置き方と関わるため、扱いに迷う場合は指定権者に確認してください。
少なくとも社内の記録では、最低賃金への対応で上げた分と、加算による上乗せで上げた分を分けておくことをすすめます。分けていないと、改善額を説明するときに根拠が出せません。
改定前に確認すること
最低賃金の改定額は夏に決まり、多くの地域で10月に発効します。改定の発表から発効まで2か月ほどあるので、その間に次のことを確認します。
- 基本給だけで新しい最低賃金を満たしている職員と、満たしていない職員の一覧
- 満たしていない職員について、基本給を上げるのか手当で対応するのかの方針
- 時給制の職員の時給が、新しい最低賃金を下回らないか(処遇改善の上乗せを除いた時給でも確認する)
- 最低賃金への対応で上げた分を、加算の記録とどう分けるか
経営者として見ておく人件費の変化
最低賃金の引き上げは、加算の原資が増えないまま人件費だけを押し上げます。介護報酬は改定の年にしか変わらないので、その間の最低賃金の上昇は、法人が自分の収益で吸収しなければならない部分です。
ここで処遇改善手当を最低賃金対策に回すと、一時的には人件費の増加を抑えられます。しかし職員から見た賃金は他の事業所と変わらなくなり、加算を取っていることの採用上の優位が消えます。経営判断としては、次のどちらを取るかを意識して選ぶ必要があります。
| 方針 | 短期の人件費 | 中長期の影響 |
|---|---|---|
| 基本給を上げて対応する | 増える | 加算の上乗せがそのまま職員の優位として残り、採用に効く |
| 処遇改善手当で吸収する | 増えにくい | 加算の効果が見えなくなり、手当の見直しも難しくなる |
基本給で対応する分の費用は、加算の外側で確保する必要があります。最低賃金の改定は毎年続くことを前提に、翌年度の人件費の予算には、最低賃金の上昇分をあらかじめ織り込んでおくことをすすめます。
社労士が顧問先で確認すること
- 改定後の最低賃金を下回る職員がいないか(月給者は時間あたりに換算して確認する)
- 最低賃金の比較に、除外すべき手当(通勤手当・精皆勤手当など)を含めて計算していないか
- 処遇改善手当を除いた賃金で最低賃金を満たしているか(手当の見直し余地があるかの判断材料)
- 最低賃金への対応で上げた分と、加算による上乗せの記録が分かれているか
- 発効日をまたぐ給与計算期間で、日割りの切り替えが正しく行われているか
発効日が給与の締め日と一致しない場合、締め期間の途中から新しい最低賃金が適用されます。月給者でも、時間外手当の計算の基礎となる賃金に影響することがあるので、改定の年は給与計算の設定を発効日にあわせて確認するよう顧問先に伝えてください。
よくある質問
処遇改善手当を含めれば最低賃金を満たしています。問題はありますか
最低賃金法の上では、毎月定額で払う手当は比較に含められるので、それ自体は違法ではありません。ただし手当の見直しができなくなり、加算の効果も職員に伝わりにくくなるので、基本給で満たす形に移していくことをすすめます。
最低賃金の改定は毎年何月ですか
多くの地域で10月に発効しますが、都道府県ごとに発効日が違い、年によってずれることもあります。毎年夏に公表される改定額と発効日を確認してください。