社会保険の加入区分が年度の途中で変わるとき — 法定福利費の計算がずれる理由

法定福利費の増加分を賃金改善額に含めるとき、その職員が社会保険に加入しているかどうかで金額が変わります。加入区分は年度の途中で変わるため、現在の区分で1年分を計算すると、変わる前の月がすべてずれます。介護の現場では勤務時間の変更が多く、これは例外的な話ではありません。

実務

区分によって事業主負担が変わる

法定福利費の事業主負担は、その職員が何に加入しているかで変わります。健康保険と厚生年金に加入している職員、雇用保険だけの職員、どちらにも加入していない職員で、賃金を同じだけ上げたときの事業主負担の増加分は異なります。

つまり、全職員に同じ料率をかけて法定福利費の増加分を出すと、加入していない職員の分を多く計上することになります。逆に、加入している職員を外していれば少なく計上します。どちらも実績報告の金額が実際と合わなくなります。

区分が変わる場面

年度の途中で加入区分が変わる典型的な場面
きっかけ何が変わるか
勤務時間を増やした短時間勤務から加入の対象になる
勤務時間を減らした加入の対象から外れる
パートから常勤になった加入の対象になる
入職・退職加入期間がその年度の一部だけになる
年齢による変化一定の年齢で保険料の負担が変わる
適用拡大の基準が変わった制度側の変更で、従来は対象外だった職員が対象になる

介護の事業所では、上の2つがとくに頻繁に起きます。家庭の事情で勤務時間を調整する職員、扶養の範囲を意識して時間を増減する職員が一定数いるため、年度を通して区分が変わらないという前提は現実に合いません。

「現在の区分で1年分」が壊れる理由

表計算で管理していると、職員の一覧に加入区分の列をひとつ持ち、そこに現在の区分を入れる形になりがちです。この形だと、年度末に計算した時点の区分で、4月からの12か月分すべてが計算されます。

10月に勤務時間を増やして加入した職員がいれば、4月から9月の6か月分も加入しているものとして計算されます。逆に、年度末に退職して区分を空にした職員は、在職していた期間の分も計上されなくなります。

1人あたりの差は数万円でも、職員数が増えれば法人全体では数十万円から数百万円の単位で動きます。過不足の判断がひっくり返る規模です。

必要なのは「いつからいつまでどの区分だったか」

正しく計算するには、職員ごとに区分の履歴を持つ必要があります。現在の区分ではなく、期間つきの記録です。

  • 区分が変わった日(適用の開始日)
  • 変わる前の区分と、変わった後の区分
  • 変更の理由(勤務時間の変更、入退職、制度の変更など)
  • その区分に対応する料率

これがあれば、ある月の法定福利費を計算するときに「その月に有効だった区分」を引けます。月ごとに区分を解決して計算するという形になり、年度の途中の変更が自然に反映されます。

料率も1つではない

区分の履歴とあわせて、料率の管理も必要になります。健康保険料率は都道府県や健康保険組合によって異なり、介護保険料率や子ども・子育て拠出金の率も改定されます。年度の途中で改定されることもあります。

複数の事業所が別の都道府県にある法人では、事業所ごとに料率が違います。法人の既定の料率を持ちつつ、事業所ごとに上書きできる形にしておくと、どちらの場合も表現できます。

どの料率を使ったかは必ず記録してください。翌年度に別の担当者が別の料率で計算すると、前年度と比較できなくなります。計画書で見込んだ料率と、実績報告で使った料率が違う場合も、その理由を説明できる必要があります。

年度の初めに確認すること

  1. 職員ごとの現在の加入区分を棚卸しする
  2. 区分が変わる見込みのある職員(勤務時間の変更予定など)を把握する
  3. 事業所ごとの健康保険料率・厚生年金保険料率を確認する
  4. 料率の改定予定と、適用の開始月を確認する
  5. 区分の変更を、いつ・誰が・どこに記録するかを決める

5番目が実務上もっとも大事です。勤務時間の変更は現場で決まり、社会保険の手続きは別の担当者が行い、加算の計算はまた別の人がやることが多いためです。変更が加算の計算担当に届く経路がないと、年度末まで気づけません。

経営者として押さえておくこと

社会保険の適用拡大は段階的に進んでおり、これまで加入していなかったパート職員が新たに加入する事業所が増えています。経営者にとってこれは、加算とは関係なく事業主負担が増えることを意味します。

ここで注意したいのは、適用拡大で増えた事業主負担を、処遇改善の法定福利費として数えてしまうことです。加算で賃金を上げた結果として増えた分だけが数えられるので、制度の変更で増えた分を混ぜると改善額が大きく見えすぎます。実績報告で数え直しになれば、足りていると思っていた改善額が不足に変わるおそれがあります。

  • 適用拡大で加入する職員の人数と、増える事業主負担を年度初めに試算する
  • その負担は加算の原資の外で確保する
  • 加入を避けるために勤務時間を減らしたいという職員の意向も、人員配置の計画に織り込む

社労士が顧問先で確認すること

  1. 年度の途中で加入・喪失・区分の変更があった職員について、期間ごとの区分が記録されているか
  2. 法定福利費の計算に、職員ごと・期間ごとの区分が反映されているか
  3. 適用拡大で増えた負担を、賃金改善に伴う増加分と区別しているか
  4. 事業所ごとに保険料率が違う場合、それぞれの料率で計算しているか

社会保険の手続きを受けている社労士は、加入・喪失・区分の変更をもっとも正確に把握している立場です。手続きの記録を顧問先の加算の担当者と共有する仕組みを作っておくと、法定福利費の計算のずれをもとから防げます。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する助言ではありません。 介護職員等処遇改善加算の要件・様式・提出期限は改定や指定権者(都道府県・市町村)の 運用によって異なります。実際の算定・届出にあたっては、必ず最新の通知および 指定権者の案内をご確認ください。