ずれは2段階で起きる
加算が事業所に入り、職員の手元に届くまでに、時期のずれが2回入ります。
| 時期 | 何が起きるか |
|---|---|
| 4月 | サービスを提供する。この月が加算の対象月になる |
| 5月 | 国保連へ請求する |
| 6月 | 国保連から入金される(対象月の翌々月) |
| 6月または7月以降 | その入金を原資として、職員へ手当を支給する |
1段目は請求から入金までの2か月です。これは制度上決まっているので、どの事業所でも同じです。2段目は事業所の運用によって変わります。入金された月の給与に乗せるのか、翌月に回すのか、締め日と支給日の関係で何か月後になるのか。ここが事業所ごとに違うため、一律の計算では合いません。
同じ月同士で引き算すると何が起きるか
4月の加算額と4月の支給額を並べると、4月の支給に使われている原資は実際には1月や2月の加算です。つまり別のものを引き算していることになります。
毎月の加算額が同じなら、ずれていても差額はおおよそ打ち消し合います。問題は加算額が月によって変わることです。利用者数が増えれば加算も増え、減れば減ります。すると月ごとの差額がばらつき、どの月に不足が出ているのかが読めなくなります。
年度の端がいちばん大きく狂う
ずれの影響がもっとも大きく出るのは年度の境目です。4月から3月で単純に区切ると、次のことが起きます。
- 年度の初めの数か月の支給額は、前年度の加算を原資としている
- 年度の終わりの数か月の加算は、翌年度に支給される
- 結果として、集計した支給額と集計した加算額が、別の期間のものになる
このため制度上は賃金改善実施期間という考え方があり、加算の対象年度に対応する賃金改善の期間を定めて集計します。期間の取り方は事業所の支給の運用に合わせて決め、計画書と実績報告で同じ期間を使います。ここを年度ごとに変えると、前年度との比較ができなくなります。
賞与が入れ替わる
不足分を賞与で埋める運用をしている場合、期間の端にある賞与が入るか抜けるかで金額が大きく動きます。年度末の3月に補填の賞与を出したのに、集計の期間が2月までになっていると、補填した金額がそのまま集計から消えます。
逆に、前年度の補填として出した賞与が今年度の集計に入ってしまうこともあります。どちらも金額が数十万円から数百万円の単位で動くため、過不足の判断がひっくり返ります。賞与については、どの年度の加算に対する支給なのかを支給時に記録しておいてください。
事業所ごとにずれが違う
複数の事業所を持つ法人では、ここがさらに複雑になります。給与の締め日と支給日が事業所によって違う、加算の算定を始めた時期が違う、途中で開設した事業所がある、といった事情で、ずれの月数が事業所ごとに異なります。
法人全体をひとつの表で管理していると、この違いを表現できません。結果として、どこかの事業所の金額が必ずずれたまま合計されます。ずれは事業所ごとの設定として持つ必要があります。
確認する手順
- 事業所ごとに、ある月の加算がどの月の給与で支給されているかを1件たどる
- そのずれが何か月なのかを記録する(事業所ごとに違う前提で見る)
- 賃金改善実施期間を決める。計画書と実績報告で同じ期間を使う
- 賞与については、どの年度に対する支給なのかを支給時に記録する
- 過不足を月ごとに並べ、毎月同じ額の不足が出ていないかを確認する
1番目の「1件たどる」が出発点です。これを一度もやっていない状態で表を作ると、ずれたまま1年分の計算が進みます。年度の初めに1回だけ確認すれば、その年度は同じ前提で通せます。
経営者として理解しておくこと
月のずれは、資金繰りの面でも経営に影響します。加算の入金は対象月の翌々月ですが、新しく加算を取り始めた事業所や区分を上げた事業所では、職員への支給を先に始めると、入金までの2〜3か月分を法人が立て替えることになります。
たとえば月40万円の加算を取り始め、算定を始めた月から手当を払う場合、入金が追い付くまでに80万円から120万円の立て替えが発生します。手当の支給を始める時期は、加算の要件だけでなく、手元資金で立て替えられるかどうかも含めて決める必要があります。
逆に、支給を入金の後にそろえる運用にすれば立て替えは発生しませんが、職員から見ると加算を取り始めてから手当が付くまでに時間がかかります。どちらを選ぶかは、資金の余裕と職員への説明のしやすさを比べて、経営者が判断します。
社労士が顧問先で確認すること
- 賃金改善実施期間が計画書と実績報告で一致しているか
- 事業所ごとに給与の締め日・支給日が違う場合、ずれの月数を事業所ごとに把握しているか
- 年度をまたぐ賞与・一時金が、どの年度の加算に対する支給かを記録しているか
- 算定を始めた年度・やめた年度で、端の月の扱いが正しいか
顧問先から「毎年少しずつ不足が出る」と相談されたときは、配分を増やす提案をする前に、まずずれの確認から入るのが近道です。1件の加算がどの月の給与で支給されているかを一緒にたどるだけで、原因が分かることが少なくありません。