加算は賃金水準の維持が前提
処遇改善加算は、加算で上乗せした分だけ職員の賃金を改善することを求めています。もし加算で手当を上乗せする一方で基本給を下げれば、職員の受け取る額は変わらず、加算の意味がなくなります。
そのため、加算を算定しながら賃金水準を引き下げることは原則として認められていません。例外として、事業の継続のためにやむを得ない場合に限り、届出を行ったうえで引き下げることができます。
届出が必要になる場面
- 利用者の大幅な減少などで収支が著しく悪化し、賃金を見直さなければ事業の継続が困難になった
- 基本給や既存の手当を一律に減額する
- 賃金体系を見直した結果、職員の賃金水準が全体として下がる
個々の職員の勤務時間が減って賃金が下がった、役職を外れて役職手当がなくなった、といった個別の事情による変動は、ここでいう賃金水準の引き下げとは別に考えます。判断に迷うときは、引き下げを実施する前に指定権者に相談してください。
届出書に書く内容
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 収支の状況 | 経営が悪化していることを示す数字。収入の減少や赤字の状況 |
| 引き下げの内容 | どの賃金を、いつから、どれだけ下げるのか |
| 加算の使い方 | 引き下げた後も、加算の額以上の賃金改善を行うこと |
| 労使の合意 | 賃金の引き下げについて職員と適切に協議したこと |
| 回復の見込み | 経営状況が改善した場合に賃金水準を回復させる見込み |
大事なのは、引き下げた後も加算の額以上の賃金改善は続けるという点です。届出をしたからといって、加算をそのまま法人の運転資金に回してよいわけではありません。
職員との合意は別に必要
届出は加算の取り扱いについての手続きです。賃金を下げること自体は労働条件の不利益な変更にあたるので、労働法上の手続きは別に必要です。
- 経営状況と引き下げの必要性を、数字を示して職員に説明する
- 引き下げの内容と期間、回復の見込みを伝える
- 就業規則・賃金規程を変更する場合は、その手続きを行う
- 職員と協議した経過を記録に残す(届出書の根拠にもなる)
届出をせずに下げた場合
届出をせずに賃金水準を下げると、賃金改善の要件を満たしていないと判断されるおそれがあります。その場合、加算の全部または一部が返還の対象になります。
経営者として判断する前に
賃金の引き下げは、経営の立て直しの手段としては最後に選ぶものです。介護事業では人件費が支出の大半を占めるので、賃金に手を付けたくなる気持ちは分かります。しかし賃金を下げれば職員の退職が増え、人員基準を満たせなくなれば、収入そのものが減ります。
- 稼働率の改善や、取れていない加算の算定など、収入側の打ち手を先に検討する
- 賃金以外の経費(委託費・賃料・車両費など)の見直しを先に行う
- 引き下げる場合も、期間を区切り、回復の条件を明示する
- 処遇改善加算の分は引き下げの対象にしない(加算の額以上の改善は続ける)
特別な事情に係る届出は、経営が苦しいときの「逃げ道」ではなく、事業を続けるための賃金の見直しを、加算の要件と両立させるための手続きです。届出書に書く収支の状況や回復の見込みは、そのまま経営改善の計画になります。届出を考える段階で、金融機関や顧問の税理士にも相談しておくと、計画の実効性が高まります。
社労士が顧問先で確認すること
- 引き下げが賃金水準全体の引き下げにあたるのか、個別の事情による変動なのかを整理する
- 労働条件の不利益変更として、職員の同意または就業規則変更の合理性を確保できるか
- 届出書の収支の状況を、決算書や月次の試算表で裏付けられるか
- 引き下げ後も加算の額以上の賃金改善が見込めるか
- 回復の見込みと時期を、職員への説明と届出書で一致させているか
賃金体系の見直しを相談されたときは、顧問先が「引き下げ」と認識していなくても、職員ごとに変更前後の受取額を比べてもらうのが確実です。下がる職員が1人でもいれば、届出の要否を指定権者に確認するという手順を、顧問先との間で決めておくと安心です。
よくある質問
届出をすれば加算を運転資金に回してもよいのですか
いいえ。届出は賃金水準を引き下げることについての手続きで、加算の額以上の賃金改善を行う義務はなくなりません。加算は引き続き職員の賃金に充てる必要があります。
賃金を下げた後、経営が回復したらどうすればよいですか
届出書に書いた回復の見込みに沿って、賃金水準を元に戻します。回復の時期や方法は職員にも説明し、戻したことを記録に残してください。
一部の職員の賃金だけを下げる場合も届出が必要ですか
個別の事情による変動か、賃金水準の引き下げにあたるかで判断が分かれます。判断がつかない場合は、引き下げを実施する前に指定権者に確認してください。